止まれない魚
青い水槽のトンネルを魚たちの群れが泳いでいる
まるで永遠にでも泳ぎ続けていられるかのように、止まることなく目の前や頭上を通り過ぎて行く
魚たちが織り成す流線型の波が、赤や青や黄色といった光の渦をきらめかせ、そしてゆっくりと旋回する
「みんなとは少し違ったんだ。そして僕たちにはきっと、想像力ってもんが必要なんだ。 輝かしい未来? そんなものは誰にもわかりゃしないさ」
僕たちは突き進んでいた
まるで止まれない魚みたいに
止まったら死んでしまうような気がして
ひたすらに
ただひたすらに泳ぎ続けていた
その先に何があるのかなんて 本当のところ解っちゃいない
見えてるかい 光が
見えてるかい この先が
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彼女はいつもヒョウ柄のコートを着ていて、胸まである髪を手で掻き上げる。そうする時の横顔はそれはもう妖艶というか、「美しい」の一言だった。
僕が彼女の虜になったのも、そういった妖艶なところのせいだろう。
空を見上げてみると、何時の間にかどんよりとした雲がどこからともなく溢れ出し、まるでこれが本当の夜の色なんだと主張しているかのように途切れなく流れ、透明な夜を灰色へと塗り変えて行く。
降り始めの雨は、まるで一瞬にして飲み込んでしまうかのように、真夏の夜の生温い空気を掻き消してしまった。
リズムが安定しない雨は次第に強さを増して行き、屋根を打ち付ける音が時折僕を不安な気持ちにさせる。
ドアを開けると少し狭いバーカウンターの奥に長い黒髪の女性が座っているのが見えた。週末にしては珍しく店内にはゆっくりっした空気が流れている。
僕は一つ席を空けたところに席を取り、いつものカクテルを注文した。カクテルと言ってもウォッカに唐辛子を付け込んだ「ペルツォフカ」という酒をトニックで割っただけの味気のない酒だ。
これが仕事で疲れた身体には、なんとも言えなくガツンとくる。とりあえず仕事帰りにはこの店に寄り、頭の中を整理するのが僕の日課になっていた。
「そのお酒、美味しいんですか?」
「ええ‥どうだろ」
気が抜けきっていた僕は、気の利いたセリフも思い付かずに前に並べてある「フォア・ローゼス」や「ジャック・ダニエル」といった、ありきたりの酒の瓶に目を落とし琥珀色の光を眺めていた。
「ちょっと飲んでいい?」
彼女は京都弁混じりの小さめな声でそう言うと、グラスを手に取り半分ほど一気に飲んだ。
この酒は物好きな奴が好む。辛くて苦くてさらに強い。
その時の髪を掻き上げる仕草が目に焼き付いて離れない。そしてあのうつろ気な瞳。
そう、僕はこの時からすでに彼女の虜だった。
いったいどれぐらい飲んだのだろう。
目が覚めるとそこに彼女の姿はなく、そこにあったであろう温もりだけが昨夜の出来事をゆっくりと思い出させていく。
朝の太陽が眩しい。
時計は7時を回ったところだ。
身体中に染み込んだ酒が頭を揺らす。僕は喉の渇きを癒すためにキッチンへと向かった。
冷蔵庫のドアを開けると、冷たくなった空気が僕の目を覚ましていく。
抱きしめただけで折れてしまいそうな線の細い体。
そして白い肌。
その優しい瞳。
柔らかな声。
life
夢というのは不思議なものだ。記憶なのか願望なのか分からないが、どこか懐かしい感じがする。僕は夢の続きがみたくなって、そっと目を閉じて薄れた映像に思いを馳せてみた。そんな夢の記憶。